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【2022年版】博士課程のための経済的支援制度まとめ【徹底解説】

こんにちは。ぱにです。

医学系の研究室で博士号取得を目指しています。

この記事では、博士課程の学生に対する経済的支援(フェローシップ)について書いていきます。

「博士課程でも給料が出るって本当?」

「最近増えてきているフェローシップのまとめサイトを探してるんだけど…」

こんな疑問に対する回答記事を用意しました。

博士課程への進学を考える上で、切っても切れないお金の問題。

この記事を利用して、博士課程支援制度の整理に是非役立ててください。

以下の記事も併せて参考にしてください。

前置きはいいからまとまった表が見たいという方は、こちらより飛ぶことができます。

経済的支援の必須条件

経済的支援といっても、お金が手渡されればどんな条件でもいいというわけではありません。

申請を考えたい支援制度について、以下の3点を必ず確認しましょう。

返還不要であるかどうか

進学にお金が必要な学生にお金を貸す制度は、奨学金制度と呼ばれるものです。

返還義務が生じるということは、そのお金は紛れもない借金です。

無事に学位を取ったとしても、修了の時点で膨大な借金が手元に残ることになります。

奨学金の返済に収入のいくらかを長期間充てていくのはハイリスクなので、できれば避けたいですよね。

当然ながら、奨学金制度自体をを否定する気持ちはまったくなく、使わないと進学が困難な方も多いことは承知しております。

一方で、大学院修了後の人生のリスクについても考慮するべきであり、最後の切り札という認識で付き合うものかなと思います。

ぱに
ぱに

僕自身、大学院修士課程で奨学金を借りていましたが、よくよく適正リスクを考えて貸与することを決めました。

詳細はこちらの記事に詳しく書いています。

また最近では、給付型奨学金といって、返還義務がない奨学金制度も増加傾向にあります。

給付型の場合、申請条件が厳しいこともありますが、自身が利用できるかを調査する価値は十分にあるかと思います。

生活費相当の支給が出るか

居住地域や生活水準によって各々異なると思いますが、月に15-20万円ほどが生活費相当の目安になります。

たとえば、TA(ティーチングアシスタント)は、大学ごとに広く募集がかかりますが、月に5-6万円ほどしか支給されず、生活費全てを賄うには厳しいと言わざるを得ないでしょう。

月額いくらもらうことができるのかを確認し、生活様式を見直していく必要があります。

どのくらいの期間支給されるのか

必ずしも全ての制度が、修了まで金銭的なサポートをしてくれるとは限らないので確認しましょう。

特に、指導教員の研究資金によって金銭的支援が出るような雇用形態の場合、おおもとの研究資金の期限と博士学生の雇用期間は一心同体ですから、該当する場合ケアしておく必要があります。

博士課程の経済的支援制度

代表的な博士課程の経済的支援制度のまとめがこちらです。

統括機関採用人数
(年次あたり)
申請資格期間生活費支援額研究費
DC1/DC2日本学術振興会DC1:700名
DC2:1,100名
DC1:次年度博士課程1年
DC2:次年度博士課程2年以上
DC1:(原則)3年間
DC2:(原則)2年間
月20万円年最大150万円
卓越大学院
リーディング
日本学術振興会>各大学プログラムあたり10-15名
全体で約300名(卓越大学院)
主に次年度修士課程1年修士課程から博士課程までの5年のプログラムが多い年最大240万円プログラムによって異なる
大学フェローシップ
創設事業
文部科学省>各大学プログラムあたり6-40名
全体で約1,000名
主に次年度博士課程1年博士課程の3年のプログラムが多い年180万円以上プログラムによって異なる
次世代JST>各大学大学あたり5-600名
全体で約2,000名
博士課程の学生博士修了までの期間年180-240万円年30-100万円
創発的研究支援RAJST800名の博士課程RAを雇用博士課程の学生採択された研究者の裁量による年180万円以上なし
ACT-XJST各研究領域で最大30件程度修士課程および博士課程の学生、若手研究者2年6ヶ月年約200万円1課題あたり数百万円程度

それではひとつひとつの制度を徹底解説していきます。

日本学術振興会特別研究員(DC1/DC2)

日本学術振興会特別研究員は、日本のフェローシップ制度の中でも40年もの歴史を誇る制度です。

文部科学省としては、学振を最上級の制度と位置づけており、充実した援助に加え職歴として強力な武器になります。

特にアカデミアに残りたいと考えている方にとっては、喉から手が出るほど欲しい肩書きです。

ここでは特別研究員の採用区分うち、博士課程在籍期間をバックアップするものとして、DC1とDC2について取り扱います。

【統括機関】
日本学術振興会

【採用人数(年次あたり) 】

DC1:約700名(採用率18-20%)

DC2:約1,100名(採用率18-20%)


【申請資格】

DC1:次年度博士課程1年

DC2:次年度博士課程2年以上

※4年博士等は若干異なる


【期間】

DC1:(原則)3年間

DC2:(原則)2年間


【生活費支援額】

月20万円


【研究費】

年最大150万円


【URL】


【備考】

締切迫る4,5月頃に学生が慌てふためくのは、もはや風物詩ですね。。

卓越大学院(WISE program)/ 博士課程教育リーディングプログラム(LGS program)

遡ると2001年、「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)が策定され、これに端を発する大学教育改革のための支援事業が、日本学術振興会を中心にこれまで継続的に展開されてきました。

「21世紀COEプログラム」「グローバルCOEプログラム」がこれに該当し、そして5年一貫の学位プログラムの構築を目指す「博士課程教育リーディングプログラム(LGS program)」が2011年にスタートしました。

さらに、リーディングプログラムの国からの補助期間の終了に伴い、これまでの大学院改革の成果を生かして5年一貫の博士課程学位カリキュラムを構築し、卓越した博士人材の育成を目指して2018年より発足したプログラムが「卓越大学院プログラム(WISE Program)」です。

学振とは異なる重要なポイントとして、まず修士博士一貫のカリキュラムが前提なので、修士課程のうちから経済的支援が受けられるものがあります。

また卓越大学院は、各大学が強みをアピールして国から勝ち取った予算から成立するプログラムであるため、支援内容や応募条件についても大学のプログラムごとに異なります

学生の選抜についてはそのプログラムのある大学が主導で行われますので、たとえば僕の所属するような地方公立大学では、そもそも博士進学者の母数が少ないため、あっさりと合格することができる可能性があります

ぱに
ぱに

僕もこのパターンで卓越大学院の合格をいただけたのだと思っています。

リーディングプログラムについては、学術振興会からの補助は打ち切りになっているものの、その後も継続してプログラムが組まれているものも多数ありますので、卓越大学院と併せて、自分の大学にどんなプログラムがあるのか調べてみましょう

各大学が強みを活かした独自のプログラムを用意しており、修了にはハイレベルな要件をクリアする必要があるため、学生の負担としては決して小さくないのですが、学部生のうちから博士への進学を決意している方には最適のプログラムではないでしょうか。

【統括機関】

日本学術振興会>各大学

卓越大学院:17大学30プログラムが採用(2022.6現在)

リーディング:33大学62プログラムが採用

※リーディングについては事業が既に終了している可能性に注意


【採用人数(年次あたり)】

プログラムあたり10-15名(プログラムによって異なる)

※卓越大学院のみで全体約300名の計算


【申請資格】

主に次年度修士課程1年

(プログラムによって柔軟に対応していることもある)


【期間】

修士課程から博士課程までの5年のプログラムが多い


【生活費支援額】

年最大240万円

(プログラムや学年によって異なる)


【研究費】

プログラムによって異なる


【URL】


【備考】

採択大学に対しても厳しい審査が継続するため、学生に要求することは多いですが、その分各大学は相当の熱量で学生をバックアップしてくれます。

博士進学率のあまり高くない大学では、比較的容易に修士課程の学生を採用してくれる可能性もあります。

科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業

2019年に「研究力向上改革2019」が策定され、これを受けて2020年度の補正予算が成立したことで、若手研究者へのかつてない規模の支援策が大きく打ち出されました

大学フェローシップ創設事業」は3つの柱からなる博士課程学生支援策のうちのひとつです。

科学技術・イノベーション創出を担う博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパスの支援を目的とし、2021年より発足した新しい事業となります。

この事業についても、国が大学に事業を募り、各採択大学において学生を選抜してフェローシップ等の支援を行う形式となっています。

文部科学省が直々に旗振りを行っているだけあって、約1,000名もの博士課程の学生をバックアップする支援規模が打ち出されており、国の科学力低下に対する強い危機感が感じ取れます。

【統括機関】

文部科学省>各大学


【採用人数(年次あたり)】

プログラムあたり6-40名(プログラムによって異なる)

全体で約1,000名


【申請資格】

主に次年度博士課程1年

(プログラムによって柔軟に対応していることもある)


【期間】

博士課程の3年のプログラムが多い


【生活費支援額】

年180万円以上

(プログラムによって異なる)


【研究費】

30-50 万円程度

(プログラムによって異なる)

【URL】


【備考】

生活費支援+学費免除としているプログラムが多い印象です。

これも事業の施行が大学ごとなので、ものによっては比較的倍率が低い可能性が十分にあります。

次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)

博士課程学生支援策の三本柱の二つ目にして、2020年度最大の予算がついたのが、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」になります。

こちらも2021年より支援がスタートし、博士後期課程学生への経済的支援の強化および博士人材が幅広く活躍するための多様なキャリアパスの整備を目的としています。

この事業についても、大学に対して公募をかけ、各採択大学において学生を選抜してフェローシップ等の支援を行う形式となっています。

次世代プログラムによって、約2,000人もの博士課程の学生が生活費相当の支援を受けることができるようになっています。

ぱに
ぱに

生活費については僕は次世代にお世話になっていて、研究費については次世代と卓越大学院からもらうことができています。時代の追い風に感謝。

【統括機関】

科学技術振興機構(JST)>各大学

59大学が採択(1大学につき最大1件の採用)(2022.6現在)


【採用人数(年次あたり)】

大学あたり5-600名(大学ごとに異なる)

全体で約2,000名


【申請資格】

博士課程の学生

(自分の所属大学の2022年度の採用は、1年の枠が多かったが2年以上も採用があった)


【期間】

博士修了までの期間(オーバーは貰えなくなる)


【生活費支援額】

年180-240万円

(大学ごとに異なる)


【研究費】

年30-100万円

(大学ごとに異なる)

※生活費支援と研究費の合計が年220-290万円


【URL】


【備考】

特定の分野を対象にしたプログラムではなく、全分野の博士課程の学生が対象になっていますので、博士進学を検討する上で非常におすすめです。

創発的研究支援事業

博士課程学生支援策の三本柱の三つ目が、「創発的研究支援事業」による博士課程RA雇用の創出です。

この事業のみ、今までの施策とは性質が異なります。

というのも、「創発的研究支援事業」の応募者要件には、博士号の学位取得があるため、博士課程学生の応募資格はありません

研究機関で独立している、ないしは独立を目指す若手研究者をサポートし、研究に集中できる環境を確保することこそが、本事業の目的です。

ではなぜ、この事業が博士課程の学生の支援策にもなり得るかというと、研究の遂行に必要な博士課程学生を積極的にRAとして雇用し、業務に従事した時間に応じた適切な給与(=生活費相当額)を支払うことが明記されているからです。

若手研究支援にRAの適正雇用をうまく積んでおくことで、博士課程学生の支援策としても機能させるという、おもしろい取り組みとなっています。

【統括機関】

科学技術振興機構(JST)


【採用人数】

年約250件を3年に渡って公募(2020年度:252件 2021年度:259件)

全体で800名の博士課程RAの雇用創出を想定(年次ではなくこの事業として)


【申請資格】

RAの雇用対象:博士課程の学生
※事業そのものへの応募資格は博士学生にはない


【期間】

採択された研究者の裁量による


【生活費支援額】

年180万円以上


【研究費】

なし


【URL】


【備考】

創発事業を採択された研究者を狙って探すのは、学生の立場からすると難しいです。

メンターの先生が採択されていたら交渉の余地あり、というところでしょうか。
あとは今後採択されることを一緒に祈りましょう(倍率は10倍です)。

戦略的創造研究推進事業(ACT-X)

博士の学位取得後8年未満の若手研究者を対象とした競争的資金プロジェクトであり、特に大学院生も応募できることが最大の特徴です。

国の掲げる戦略目標に合致する研究領域内で研究者を募集し、研究費を支援します。

さらに、大学院生の場合のみ、研究提案で申請する研究費とは別途で、学生自身へののRA等経費の追加支援を受けることができます。

つまり、事業としては競争的資金ですが、博士課程の学生においては同時に生活費相当の支援を受けることができるものになっています。

【統括機関】

科学技術振興機構(JST)


【採用件数(年次あたり)】

各研究領域で最大30件程度

(倍率は領域によってまちまち)


【申請資格】

修士課程および博士課程の学生、若手研究者

※生活費支援は学生のみ


【期間】

2年6ヶ月


【生活費支援額】

年約200万円


【研究費】

1課題あたり数百万円程度


【URL】


【備考】

申請課題の対象分野が決められているということはありますが、研究総括や領域アドバイザーから助言や指導を受けることができ、人脈を広げるチャンスもあります。

おまけ:10兆円ファンド

現岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の柱のひとつが、政府拠出の10兆円大学ファンドの創設です。

このファンドで得た運用益を、政府の認定した大学に集中して配分することを定めた「国際卓越研究大学法」が2022年5月に国会で成立しました。

2022年6月現在、具体的な資本提供先や運用方法は審議中であり、課題や反発も多いのですが、2022年度中に運用を開始し、2024年度には支援が始まる予定です。

ぱに
ぱに

日本の研究力低下に対して、どうにかしようと策を打つ国の姿勢そのものは評価したいです。

新しい情報が出たら記事にしたいと思います。

まとめ:博士課程への経済的支援はここ最近で選択肢が急激に増加した

この記事では、博士課程の経済支援について徹底解説しました。

まとめた表を再度こちらにも掲載します。

統括機関採用人数
(年次あたり)
申請資格期間生活費支援額研究費
DC1/DC2日本学術振興会DC1:700名
DC2:1,100名
DC1:次年度博士課程1年
DC2:次年度博士課程2年以上
DC1:(原則)3年間
DC2:(原則)2年間
月20万円年最大150万円
卓越大学院
リーディング
日本学術振興会>各大学プログラムあたり10-15名
全体で約300名(卓越大学院)
主に次年度修士課程1年修士課程から博士課程までの5年のプログラムが多い年最大240万円プログラムによって異なる
大学フェローシップ
創設事業
文部科学省>各大学プログラムあたり6-40名
全体で約1,000名
主に次年度博士課程1年博士課程の3年のプログラムが多い年180万円以上プログラムによって異なる
次世代JST>各大学大学あたり5-600名
全体で約2,000名
博士課程の学生博士修了までの期間年180-240万円年30-100万円
創発的研究支援RAJST800名の博士課程RAを雇用博士課程の学生採択された研究者の裁量による年180万円以上なし
ACT-XJST各研究領域で最大30件程度修士課程および博士課程の学生、若手研究者2年6ヶ月年約200万円1課題あたり数百万円程度

ちょっと細かいような話題もありましたが、そのぶん、日本の研究力向上のための、博士課程の学生をバックアップする施策に強烈な勢いがあることがおわかりいただけたのではないでしょうか?

大学ごとに支援の規模や対象が異なる制度も少なくないため、自分の所属する機関の支援制度がどんなものなのか、必ず自分の手で調べてみてください

ぱに
ぱに

彼を知り己を知れば百戦殆うからず、は研究でも金銭事情でも意識しておきたいところです。

支援制度を活用して、充実した研究生活を送るために、この記事が参考になったら嬉しいです。

では。

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