こんにちは。ぱにです。

医学系の研究室で博士号取得を目指しています。
今回は肩の力を抜いてドラマ雑談でもしてみようと思います。
僕は日本のドラマや俳優さんが好きで(詳しいわけではないのですが)、毎クールドラマを楽しみにチェックしています。
今クールのお気に入りは、日曜劇場『キャスター』。報道番組の裏側をテーマにした社会派ドラマです。
脚本の中だけでなく、ヒロインポジションの永野芽郁のスキャンダル報道というおまけのおかげで、ドラマ内外でいろんな意味で話題性が高いドラマになっています。
この記事では、キャスター第三話「iL細胞は存在します!美しき科学者の秘密を暴け!」のあらすじと、視聴して感じたことを、アカデミアに携わる一人の視点からゆるっと書いてみようと思います。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
あらすじ
帝都大学の研究員・篠宮楓(のん)が、新たな万能細胞であるiL細胞を発表した。ノーベル賞を受賞した組織学研究所・高坂教授(利重剛)のIda(アイディーエー)細胞を上回る画期的発見で、再生医療に一大革命を起こすと世界の注目を浴びる。
しかし、なぜか取材拒否を通す篠宮。SNSでは不正疑惑がささやかれ始める。
そんな中、彼女の研究をサポートしている栗林准教授(井之脇海)が本橋(道枝駿佑)の大学時代の先輩だったことから、『ニュースゲート』の独占インタビューが決まる。
インタビュー当日、華(永野芽郁)と本橋は進藤(阿部寛)が余計なことを言い出さないかとハラハラしながら見守る。
さらに、進藤は別の人物にも独自取材していて、 2人のインタビューが放送されて大騒動に・・・。
ネタバレと感想:行き過ぎた研究を煽る研究資金問題
火を見るより明らかな「STAP細胞騒動」のオマージュ
予告を見て、そして本編を見てほとんどの人が感じたことだと思います。
”リケジョ”による新たな万能細胞の発見、ノーベル賞受賞の研究を上回る発見である点、研究データの不正疑惑、関係者の自殺(ドラマでは自殺未遂)、世界的な検証実験(ドラマでは細胞の存在が証明される)、
そしてなによりタイトルにもなっている「iL細胞は存在します!」というセリフ。
この話が「STAP細胞はあります!」と会見で叫んだ小保方晴子氏による、一連の「STAP細胞騒動」のオマージュであることは一目瞭然でした。
実はキャスターの第二話も水原一平氏を彷彿とさせるスポーツ賭博を題材としていたんですよね。
攻めた社会風刺はインパクトがあって僕は好きです。
のんが疑惑の研究員を演じる不思議な縁
iL細胞を発見し渦中の人となる帝都大学・細胞組織研究所の篠宮楓を演じたのは、第三話のゲスト出演である、能年玲奈ことのんでした。
能年玲奈といえば、NHK朝ドラ『あまちゃん』でのヒロイン役が真っ先に思い浮かびます。
抜群の透明感とエネルギッシュなヒロイン役がぴったりで、僕も当時録画して楽しんで観ていました。
誰もが将来を約束された女優になると思っていた矢先、所属事務所とのトラブルが報道され、改名まで余儀なくされた挙句、表舞台から姿を消してしまいます。
最後に出演した民放ドラマが2014年の世にも奇妙な物語だったそうで、今回のキャスターが11年ぶりとなる民放ドラマ出演となりました。
なんと、STAP細胞騒動によって小保方晴子氏が研究の最前線から姿を消したのも、奇しくも2014年。
ファンの一人として地上波復帰が嬉しいと同時に、なんだか不思議な縁を感じざるをえない作品になりました。
のんの女優としての演技力についても素敵だなと思わされるところが多かったです。
インタビュー中にキラキラした瞳でiL細胞について熱弁する様子は、その後の進藤の「初めてあなたにインタビューした時、あなたの目は輝いていた」というセリフに強い説得力を持たせるものになっているように感じました。
改ざん・捏造はダメ、絶対
物語は、iL細胞の論文取り下げの速報によってデータの改ざんが疑われてしまうことに。
篠宮は報道陣に囲まれながらも「iL細胞は存在します!iL細胞は存在するんです」と必死に否定します。
実験者としてデータ改ざんをしていた栗林は、小野寺教授に事実を公にすることを主張します。
栗林「データの改ざんを、公表します」
小野寺「改ざんなんて誰もしてない!」
小野寺「あれは、改ざんではなく、少し盛っただけ。誇張よ。」
データを加工している時点で、程度関係なく改ざんです。盛るとか誇張とかそういう次元じゃないです。
サイエンスの信頼を地の底に落とす行為であるということを、改めて反面教師にしたいと思います。
栗林はこの後良心の呵責に耐えきれず、自殺を図り意識不明となってしまいます。
研究資金は手段であり目的ではない
なぜ研究室全体で不正に手を染めてしまったのか。最大の理由は、研究資金の確保でした。
小野寺「そうでもしないと研究費なんて下りない。これが現実なの。」
小野寺「研究費は、誰にも渡さない」
栗林の病室で、進藤も小野寺教授を追求します。
進藤「科学者はこの世の真理を追求するために研究する」
進藤「そのためには金がいる、莫大な研究費がね」
進藤「そこまでは理解できます」
進藤 「しかし今のあなた方はまるで研究費を手に入れるために研究しているようだ、私利私欲のために」
進藤「楽しいですか?」
進藤「自分自身を欺いている人間に科学の真理を追究できるとは到底思えない」
進藤「科学者はこの世の真理を追求するために研究する」
進藤「そのためには金がいる、莫大な研究費がね」
進藤「そこまでは理解できます」
進藤 「しかし今のあなた方はまるで研究費を手に入れるために研究しているようだ、私利私欲のために」
進藤「楽しいですか?」
進藤「自分自身を欺いている人間に科学の真理を追究できるとは到底思えない」
そして、番組で進藤は訴えます。
進藤「今日本の科学者たちは苦しんでいます」
進藤 「世界に比べたら研究費が4分の1といわれています」
進藤 「そんな雀の涙ほどの研究費を奪い取るため、彼らは何としても結果を出さなければならない」
進藤「その思いが焦りへと変わり、行き過ぎた研究やさらには偽装や不正といった行為にまで足を踏み出してしまう」
研究をやっていると痛感しますが、研究は本当にお金がかかります。お金がないと研究は止まります。
僕もお金がないという理由だけで、やりたい研究を自由にさせてもらえなかった経験があります。
研究の最前線を走っていくには競争的な研究費を獲得し続ける必要があり、研究資金の獲得が目的にすり替わってしまっている研究者は少なくないと思います。
捏造そのものはもちろんドラマの話ですが、背景として研究の世界の厳しい現実は紛れも無い事実だと思います。
エジソンの言葉
元になった騒動とは異なり、ライバル関係にあった高坂教授の協力もあって、iL細胞は存在が証明されるという結末を迎えます。
番組総合演出の崎久保は、高坂教授について最後に進藤に問いかけます。
崎久保「高坂教授がこんなに協力的だってどうして思ったんですか?」
進藤「高坂教授の本のあとがきにエジソンの言葉があったんだよ」
進藤「私たちの最大の弱点は諦めることにある。成功するのに最も確実な方法は常にもう一回だけ試してみることだ。と」
諦めずに信じて粘り強く研究したことが、今回の成功の必要条件だったということでしょうか。
いかにもドラマ的な結末ではありますが、逆境に対するレジリエンスは鍛えていかねばと改めて思わされました。
まとめ:アカデミアが抱える課題の描写は評価できる
この記事では、キャスター第三話ついて、研究に携わる一人としてゆるっと感想を書いてみました。
もちろんドラマなので、捏造なんてことは滅多にあり得ないはずですが、
捏造は許されないことであるという半人前の僕でもわかることが、なぜかわからなくなってしまう、その背景としての研究費問題の提起としてはよかったんじゃないかと思います。
今回は研究資金の獲得が不正の最大の動機になっていましたが、
- 研究成果を少しでも早く世に出すことへのプレッシャー
- 有名雑誌への投稿という研究者としての名声
- 閉塞感の強い研究室でのパワハラ
- 悪しき組織防衛心理により自浄作用が働きにくい特殊なアカデミアの雰囲気
などなど、研究界はまだまだ危うい環境が蔓延している気がしてなりません。
ドラマ自体は、ここまでの3話全体を通して脚本のリアリティは賛否両論あるみたいです。
そもそもドラマなんだからリアリティもなにもとは思いますけれども、不正を指示したうえに部下を自殺未遂にまで追い詰めた小野寺教授がお咎めなしになっているのは流石に違和感がありました。

割烹着姿ののんはお預けでした。
話題に事欠かないキャスター、まだ脱落せずに観ようかなと思います。
では。
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