無理なく楽しく逞しく

【令和7年度税制改正反映】博士課程で収入を得たらかかる税金と社会保険まとめ【徹底解説】

こんにちは。ぱにです。

ぱに
ぱに

医学系の研究室で博士号取得を目指しています。

この記事では、博士課程で無事に経済支援を受けられた方向けに、税金や社会保険の負担について、徹底的に解説していきます。

まずは、学振DCやフェローシップなどの支援を得られた皆さん、本当におめでとうございます!

安定した収入が得られるというのは、研究生活にとって大きな安心材料ですが、その一方で納めなくてはならない「お金」も発生するのもまた現実です。

  • 生活支援金は課税対象なの?
  • 親の扶養はどうなるの?
  • 具体的にいつ請求が来るの?

こんな疑問や悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

実際、大学は、納税の義務があるから自分で調べな!詳細は各自治体に聞いてがんばって!で終わり。ちゃんと教えてもらえる機会はほとんどありません。

そこでこの記事では、現役の博士学生であり、FP3級の資格を持つ僕が、税金や社会保険の全体像をわかりやすく整理してお伝えしたいと思います。

是非最後まで読んで、公的負担の概要を掴むのに役立ててください。

細かい話はいいから、年間の負担シミュレーションが見たいという方はこちらからどうぞ。

経済的支援制度については、以下の記事でまとめていますので、併せて参考にしてください。

【2025年版】博士課程のための経済的支援制度まとめ【徹底解説】

本記事では、保険料・税金・年金制度などについて一般的な情報を紹介していますが、個別の事情に応じた税務相談や年金相談には応じられません。
制度の詳細やご自身の状況に応じた正確な対応については、必ずお住まいの市区町村の窓口、年金事務所、または税務署へご確認ください。
なお、税務相談は税理士資格を有する者のみが行えると法律で定められていますのでご注意ください。

内容に誤りがございましたら早急に修正致しますので、コメントやお問い合わせよりご連絡いただけますと幸いです。

目次 非表示

まずは所得の区分を理解する

おかげさまで博士課程に対する経済的支援が拡充したことで、多種多様な経済的支援が存在しています。

そこでまず大切なのは、その収入がどの所得区分にあたるかを知ることです。

博士学生が得る収入は、ざっくり以下に分類されます。

① 給与所得

いわゆる「給料」として支払われるもので、アルバイトでもらうお金と同じ扱いになります。

お金を支払う側には年末に源泉徴収票(1年間の収入や税額が書かれた証明書)を発行する義務があります。

裏を返せば、源泉徴収票を受け取った場合は給与所得ということになります。

以下のような支援が該当します:

  • 学振DC
  • TA(ティーチング・アシスタント)
  • RA(リサーチ・アシスタント)※契約形態による

このタイプの収入は、「給与所得控除」が適用され、一定額までは非課税になります。

② 雑所得

一方で、給料ではなく、「支援金」や「生活費補助」として受け取るタイプの収入は、原則として雑所得に分類されます。

以下のようなフェローシップが該当します:

  • 次世代研究者挑戦的研究プログラム
  • 次世代AI人材育成プログラム
  • 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ
  • その他大学独自のフェローシップ(※給与ではない形態のもの)

雑所得には給与所得控除がなく、収入の額がそのまま合計所得金額になるため、給与で同じ金額をもらうケースに比べて、基本的に税金が高くなります。

給付型奨学金

もうひとつの主要な収入源として、給付型奨学金があります。

これは返済不要で支給される奨学金であり、進学時に申請している人も多いと思います。

代表的なものは以下のような制度です:

  • 日本学生支援機構(JASSO)の給付型奨学金
  • 自治体や財団による給付型奨学金(〇〇財団など)

このタイプの収入は、原則として非課税です。

支給元の案内文や交付要項に「課税対象外」と明記されている場合がほとんどですので、確認しておくようにしましょう。

上記の3つの他には、たとえば学会等での賞金が一時所得に分類されるなど、細かい所得の分類が存在しますが、課税対象の所得としては、「給与所得」「雑所得」を押さえておきましょう。

博士学生にかかる負担①:所得税

所得税とは?

所得税は、1年間の「所得」(=収入から必要経費や控除を引いた金額)に対して課される、国に納める税金です。

大学生や大学院生であっても、給与所得が年間160万円以上(令和7年より改正、それまでは130万円以上)、または雑所得が95万円以上(令和7年より改正、それまでは48万円以上)があれば納税義務が発生します。

所得税は、その年の1月1日〜12月31日までの課税所得に基づいて計算されます。

収入の区分が「給与所得」か「雑所得」かで納める方法が異なります。

  • 雑所得など源泉徴収のない収入は、翌年2〜3月に確定申告をして税額を確定・納税します。
  • 一方、給与所得(源泉徴収あり)の場合は、その年の収入に応じて毎月の給与から税金が自動で天引きされます(=源泉徴収)。年末には、過不足を年末調整で精算します。

雑所得なら確定申告は必須

確定申告とは、毎年1月から12月までの収入や控除を整理し、自分で税額を計算して国に報告・納税する手続きです。

博士学生の場合、自身の収入の種類によって、確定申告が必要かどうかが決まります。

  • 給与所得のみで、かつ源泉徴収済み(給与を受け取る時点で税金が差し引かれている)
    → 基本的に確定申告は不要
  • 雑所得がある/2種類以上の所得がある
    → 確定申告が必要

学振は給与所得に該当するため、すでに源泉徴収された後の金額が支給され、確定申告は不要です(学振以外の給与がない場合)。

JSTの次世代やフェローシップなどの生活支援費は「雑所得」に該当するため、確定申告の対象になります。

所得税額の目安

以下に、博士学生によくある2つのケース(給与所得/雑所得)について、所得税の目安を示します。

【表1-1】給与所得の場合(令和7・8年(限定措置期間))

収入給与所得控除合計所得金額基礎控除課税所得所得税(概算)
180万円65万円115万円95万円20万円1.0万円
200万円68万円132万円95万円37万円1.85万円
240万円80万円160万円88万円72万円3.6万円
267万円88.1万円178.9万円88万円90.9万円4.55万円

【表1-2】給与所得の場合(令和9年以降)

収入給与所得控除合計所得金額基礎控除課税所得所得税(概算)
180万円65万円115万円95万円20万円1.0万円
200万円68万円132万円95万円37万円1.85万円
240万円80万円160万円58万円102万円5.1万円
267万円88.1万円178.9万円58万円120.9万円6.05万円

【表2-1】雑所得の場合(令和7・8年(限定措置期間))

収入(=合計所得金額)基礎控除課税所得所得税(概算)
180万円88万円92万円4.6万円
200万円88万円112万円5.6万円
240万円88万円152万円7.6万円
312万円88万円224万円11.2万円

【表2-2】雑所得の場合(令和9年以降)

収入(=合計所得金額)基礎控除課税所得所得税(概算)
180万円58万円122万円6.1万円
200万円58万円142万円7.1万円
240万円58万円182万円9.1万円
312万円58万円254万円12.7万円

補足

  • 給与所得は「給与所得控除」+「基礎控除」が適用されます。
  • 雑所得には「給与所得控除」はありませんが、「基礎控除」は適用されます。
  • 本表では、基礎控除以外の所得控除については言及していません。
    社会保険料控除については、国民健康保険と国民年金が該当する場合の計算を別セクションに記載しています。
  • 所得税は「課税所得 × 5%」で概算(※復興特別所得税等は含まず)。
  • 本表は、研究遂行費(学振)や経費(JSTの次世代フェローシップ等)を控除しない場合を想定しています。
    研究遂行費経費を計上する場合の扱いについては、別セクションで解説します。
  • 令和7年度以降、所得税では勤労学生控除は意味をなさなくなりました。
    勤労学生控除については、別セクションで解説します(リンクで飛べます)。
  • 学振の場合、基礎控除の引き上げによって、社会保険料控除が適用できれば所得税は支払わなくて済む計算になります。

博士学生にかかる負担②:住民税

住民税とは?

住民税は、都道府県(県民税)と市区町村(市民税)に納める地方税で、前年の1月1日〜12月31日までの課税所得に応じて課されます。

大学生や大学院生であっても合計所得金額が45万円以上(給与所得換算で110万円以上(2025年度より改正、それまでは100万円以上))の収入があれば納税義務が発生します。

住民税には、大きく分けて2つの納付方法があります。

  • 特別徴収:給与から天引きされる
  • 普通徴収:自分で納付書を使って支払う

博士学生の主な収入である学振や雑所得区分の生活支援金は、自分で支払い手続きをする普通徴収となります。

住民税は、翌年の6月・8月・10月・翌々年1月の年4回に分けて、または6月に一括で納付書を使って支払います。

一括で納付しても、税額は変わりません。

自分で支払うのが基本

繰り返しになりますが、博士学生の収入は普通徴収(自分で納付)となるケースがほとんどです。

6月ごろに自宅へ納付書が届き、QR決済・銀行・コンビニ・口座振替などで自分で支払う必要があります。

納付書は前触れもなく郵送されるため、見落としには注意が必要です。

税額のしくみ

住民税は、次の2つの要素で構成されています。

  • 均等割:所得の多寡にかかわらず、一律で課される定額部分(多くの自治体では年間5,000円程度)
  • 所得割:課税所得に対して約10%課される部分

住民税額の目安

以下に、博士学生によくある2つのケース(給与所得/雑所得)について、住民税の目安を示します。

【表3】給与所得の場合(令和7年以降)

収入給与所得控除合計所得金額基礎控除課税所得所得割均等割住民税合計
180万円65万円115万円43万円72万円7.2万円0.5万円7.7万円
200万円68万円132万円43万円89万円8.9万円0.5万円9.4万円
240万円80万円160万円43万円117万円11.7万円0.5万円12.2万円
267万円88.1万円178.9万円43万円135.9万円13.6万円0.5万円14.1万円

【表4】雑所得の場合(令和7年以降)

収入(=合計所得金額)基礎控除課税所得所得割均等割住民税合計
180万円43万円137万円13.7万円0.5万円14.2万円
200万円43万円157万円15.7万円0.5万円16.2万円
240万円43万円197万円19.7万円0.5万円20.2万円
312万円43万円269万円26.9万円0.5万円27.4万円

補足

  • 住民税の課税額は、自治体ごとに若干異なる場合があります。
  • 基礎控除(43万円)が適用されます。
  • 給与所得(学振等)に対しては額に応じた給与所得控除が適用されます。
    同じ収入額であっても雑所得(JST次世代等)には適用されません。
  • 本表では、基礎控除以外の所得控除については言及していません。
    社会保険料控除については、国民健康保険と国民年金が該当する場合の計算を別セクションに記載しています。
  • 住民税は「課税所得 × 10%」で概算(※復興特別所得税等は含まず)。
  • 均等割は5000円で概算。
  • 本表は、研究遂行費(学振)や経費(JSTの次世代フェローシップ等)を控除しない場合を想定しています。
    研究遂行費経費を計上する場合の扱いについては、別セクションで解説します。
  • 本表は、勤労学生控除を適用しない場合を想定しています。
    勤労学生の適用条件やその場合の扱いについては、別セクションで解説します。

博士学生にかかる負担③:国民健康保険

国民健康保険とは?

国民健康保険(以下、国保)は、会社に所属していない自営業者や学生などが加入する公的医療保険です。

博士学生の多くは大学に雇用されているわけではないため、会社の健康保険(社会保険)には入れず、国保への加入が必要となります。

国民健康保険料は、前年1月〜12月の所得をもとに、その年の保険年度(4月〜翌年3月分)の保険料が決定されます。

多くの自治体では、保険料の通知書が6月ごろに送付され、そこから年度末までの分を最大10回の分割で納付します。

また、保険料を一括で前納することもでき、割引制度がある自治体もあります。

国保への加入は義務付けられている

普段病院に行かないからといって、国保の加入を見送ることはできません。

日本には世界的にも恵まれた国民皆保険制度が採用され、年齢や職業、健康状態にかかわらず、誰でも医療保険に入ることができます。

その一方で、この制度を持続させるには「全員が加入すること」が必要条件です。

もし加入が任意だと、健康な人が加入をせず、健康状態の悪い人が積極的に加入する逆選択が働き、公的制度が破綻してしまいます。

だからこそ、日本では健康状態にかかわらず、すべての人に加入が義務付けられているのです。

医療保険に加入していれば、病気やケガの治療を原則3割の自己負担で受けられるだけでなく、高額療養費制度などの公的支援も利用できます。

たとえ今は健康でも、万が一の事故や大病に備えるためにも、国保への加入は必須となります。

博士経済支援によって扶養から外れた場合は、14日以内に加入手続きが必要です。 これを過ぎて病院にお世話になると厄介ですので、早めに準備をしておきましょう。

企業の社会保険(健康保険)との違い

企業勤めの方などは、国保ではなく社会保険(健康保険を含む)への加入が義務付けられています。

国保との大きな違いは、保険料が会社と折半になり、自己負担分も給料から自動で天引きされる点です。

一方で博士学生は、ただでさえ多くはない収入から保険料を全額自己負担しなければならず、国保の経済的負担は決して小さくありません。

支払った保険料は控除の対象になる

国保の保険料は、翌年の確定申告や年末調整で社会保険料控除として申告でき、所得税や住民税の軽減につながります。

控除の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った金額です。

社会保険料控除の対象になるのは、いつの分を払ったかではなく、いつ実際に支払ったかで判断される点に注意が必要です。

国民保険料の目安

国民健康保険料は、(課税所得 × 所得割率)+均等割額(+平等割額(※世帯ごと))の合計で算出されます。

以下に、博士学生によくある2つのケース(給与所得/雑所得)について、の目安を示します。

【表5】給与所得の場合

収入給与所得控除合計所得金額基礎控除課税所得所得割額(医療分+支援分)均等割(医療分+支援分)保険料合計
180万円65万円115万円43万円72万円7.5万円6.4万円13.9万円
200万円68万円132万円43万円89万円9.3万円6.4万円15.7万円
240万円80万円160万円43万円117万円12.2万円6.4万円18.6万円
267万円88.1万円178.9万円43万円135.9万円14.1万円6.4万円20.5万円

【表6】雑所得の場合

収入(=合計所得金額)基礎控除課税所得所得割額(医療分+支援分)均等割(医療分+支援分)保険料合計
180万円43万円137万円14.2万円6.4万円20.6万円
200万円43万円157万円16.3万円6.4万円22.7万円
240万円43万円197万円20.5万円6.4万円26.9万円
312万円43万円269万円28万円6.4万円34.4万円

補足

  • 国民健康保険料は、自治体ごとに異なる計算式を用いています。
  • 基礎控除(43万円)が適用されます。
  • 国民健康保険料の算出においては、所得税や住民税とは異なり、社会保険料控除や勤労学生控除は適用されません
  • 計算式は、令和7年度東京都文京区のもので概算。
    所得割は「課税所得 × 10.4%」、均等割は「6.4万円」(39歳以下)。
  • 本表は、研究遂行費(学振)や経費(JSTの次世代フェローシップ等)を控除しない場合を想定しています。
    研究遂行費経費を計上する場合の扱いについては、別セクションで解説します。

博士学生にかかる負担④:国民年金

国民年金とは?

国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する、公的年金制度の基礎部分です。

会社員や公務員の場合は厚生年金に加入しますが、大学に雇用されていない博士学生の多くは、国民年金に個人で加入する必要があります。

保険料は所得にかかわらず一律です。

毎月納めるのが基本で、納付書は例年4月上旬に届きます

半年分や1年分、2年分をまとめて前納することで割引を受けられる制度もあります。

年金とは老後のためだけではない

まだまだ先の老後のために支払う必要性を感じない人も少なくないと思います。

しかし、国民年金の重要な役割は老後の年金だけではありません

障がいを負ったときの障害年金や、家族を遺して亡くなった場合の遺族年金といった、万が一のときの備えとしての意味合いも大きいのです。

たとえば、事故や病気で障がいを負った場合でも、年金に加入していなかったり、未納が続いていたりすると障害年金を受け取れないことがあります。

企業の厚生年金との違い

企業に勤める人は、基礎年金に加えて厚生年金にも加入しており、その保険料は基礎年金分も含めて会社と個人で折半されます。

そのため、自己負担額は博士学生より多くなる場合もありますが、長期的に見れば、企業が半額負担してくれるうえ、将来受け取れる年金額も多くなります。

一方で、博士学生は厚生年金に加入できず、基礎年金のみを全額自己負担しなければなりません。

最終的に老後で受け取れる年金額は、企業勤めの人と比べて差がついてしまい、将来の備えという点で出遅れてしまうのが実情です。

納付猶予制度は適用外となる可能性が高い

収入の少ない学生にとって、国民年金の負担は決して軽くありません。

このような場合には学生納付特例制度を利用すれば、本人の前年所得が128万円以下(給与取得換算で194万円以下)であれば、保険料の支払いを猶予してもらえます。

ただしこの制度はあくまで「猶予」にすぎず、支払いが免除されるわけではありません。

3年度目以降に追納する際には、経過期間に応じて加算額が上乗せされることに注意が必要です。

一方で、未納とは異なり将来の年金受給資格を守ることができ、追納時にはその支払いが社会保険料控除の対象となるため、将来的に税負担を軽減できる可能性もあります。

なお、学振で研究遂行経費を一定額以上申請した場合は、学生納付特例制度を利用できます。

それ以外のケースでは、経済支援等で所得要件を超えてしまい、猶予の対象外になるケースが多いです。

申請は毎年必要なので、住民票のある自治体や年金事務所で手続きを行いましょう。

支払った保険料は「社会保険料控除」の対象になる

年金保険料は、確定申告や年末調整の際に社会保険料控除として所得控除の対象になります。

支払った年金保険料の分だけ課税所得が減り、結果的に所得税や住民税の負担が軽くなります。

親が本人の年金保険料を支払っている場合でも、控除を受けられる可能性があるため、確定申告時に確認してみましょう。

国民年金保険料の目安

令和7年度の国民年金保険料は月額17,510円で、所得にかかわらず一律です。

この5年間ほど、年間およそ20万円前後で推移しており、収入の少ない博士学生にとっては無視できない経済的負担となります。

その他疑問

親の扶養について

説明を見る

ここまで来て今さらかと思いますが、博士課程の学生が経済支援を受けることになれば、親の扶養から外れることになります。

扶養の概念には、所得税の扶養社会保険の扶養がありますので、それぞれ説明します。

所得税の扶養の場合、扶養者の収入が123万円を超えると扶養親族の対象から外れ、扶養控除が利用できなくなります

本人に所得税の納税義務が発生するのは160万円(給与所得の場合)なので、ギャップが存在していることを認識しておきましょう。

社会保険の扶養の場合、扶養者の月収が108,333円を継続して超えることが予想される場合に、社会保険の扶養を外れる手続きが必要となります。

年間の収入合計と関係なく、月の継続した収入に基づく判断になるため、学振1年目に年間の収入が130万円未満であっても、4月には扶養から外れなくてはならないのです。

研究遂行経費について

説明を見る

研究遂行経費とは、学振研究員が、研究奨励金のうち生活に係る経費ではなく、研究課題を遂行するために要する費用を経費として申請できる仕組みのことです。

研究奨励金(収入)の3割相当額を上限に申請することが可能で、研究遂行費分は課税対象外となります。

そのため、計上する収入が少なくなることに伴って課税所得額も大きく下がることになり、所得税・住民税・国民健康保険料を減額することができます。

研究遂行経費を申請し使い切れない場合は、使い切れなかった分が追加課税されます(約10%、賞与扱いとなってそこに所得税がかかるイメージらしいです)。

しかし、使い切れずとも課税所得額を再計算されることはないようですし、使った分の研究遂行経費には税金がかからないので、申請し得の制度と言えそうです。

経費(JST次世代やフェローシップ等)について

説明を見る

雑所得に対しては、経費を計上することで課税所得額を減らすことが可能です。

雑所得で経費に計上できる費用は、雑所得を得るために支出した費用です。

具体的には、大学の授業料・大学への交通費・研究のための物品や消耗品の費用・書籍代・研究費で落とせなかった学会の年会費などが相当するようです。

実際に経費として扱えるかの判断はグレーゾーンも多いため、最終的には税務署に相談するのが確実です(専門的な税務相談は税理士資格が必要です)。

また、税務調査やトラブルの発生時に必要な証拠として、経費の領収書は保管しておきましょう(5年間)。

勤労学生控除について

説明を見る

勤労学生とは、以下の三つが当てはまる者を指します。

(1)自身の勤労に基づく所得がある (2)1年の合計所得金額が85万円以下 (3)給与所得以外の所得が10万円以下 (4)学生である

勤労学生控除を申請することで、所得控除(所得税27万円・住民税26万円)を受けることができます。

雑所得で経済的支援を受けている場合、(3)を満たせないため勤労学生控除は使えません。

給与所得をもらっている場合でも、年間収入が150万円を下回っている必要があるため、博士1年目には適用できるかもしれません。

一方、令和7年度の税制改正により、そもそも給与年収が160万円以下の場合は所得税がかからないため、所得税に関しては勤労学生控除の意味がなくなりました

住民税については、引き続き有効です。

学振DC1年目の場合(学振の給与所得が180万円)に研究遂行経費を3割申請した場合、学振による収入が126万円とみなせるため、26万円の勤労学生控除を受けることができる可能性があり、2.6万円税金が安く済むということになります。

さらには、収入が134万円(給与所得控除65万円+基礎控除43万円+勤労学生控除26万円)以下の場合は、住民税の所得割が発生しません

2年目については、研究遂行経費を3割申請しても年間収入が168万円となるため、控除を受けることはできません。

税制改正前は、DC1年目の1月〜12月の「学振以外の所得」が4万円未満であれば、所得税も住民税も勤労学生控除を受けられる、という細かい縛りがありましたが、

改正後は、DC1年目の1月〜12月の「学振以外の所得」が8万円未満であれば住民税の所得割が免除(均等割は支払う)、24万円未満であれば住民税が2.6万円安くなる、ということになります。

青色申告について

説明を見る

JSTの次世代やその他大学からのフェローシップで、雑所得を研究奨励費として受け取っている場合、青色申告をすることで節税できるという記事を見かけることがあります。

専門家ではないため、専門的なことは税理士からの意見が絶対ではありますが、個人的にはあまりおすすめできないと思っています。

収入を得るための活動が事業として成立しているか、というのがその所得が雑所得が事業所得かを判断する指標となりますが、

営利目的であること・自己の危険と計算において独立して行うことという2点において、事業と言い張るのは難しいのではないかと思います。

単純にあくまで支給していただいているお金を、自分の事業の営みで生じたお金だと申告するのも多少傲慢な気がします。

このような自己判断が難しい行為については、冷静に一歩身を引いて静観するのがベストかと個人的には思います。

青色申告が認められず白色申告になった事例も存在しますし、最悪の場合経済的支援の停止や支給済の支援金の返還を通達される可能性もあります。

博士学生の支払いシミュレーション

いくつかありそうなパターンで支払額のシミュレーションをしてみます。

それぞれの計算式や補足は、これまでのセクションを参照してください。

1年目というのは、研究支援金の受け取りが始まる4月を含む年の1月から12月を指し、秋入学は考慮していません。

所得税は令和9年以降の基礎控除を用いて計算します。

国民健康保険料および国民年金(令和7年度)は月賦払いとして計算します。

住民税の額が大きい時は参考として4分割の支払額も記載しますが、手取り計算は簡略のため一括支払いとして行なっています。

ケースA.学振1年目B.学振2年目C.学振3年目D.学振3年目(研究奨励金特別手当採用)E.JST次世代1年目F.JST次世代2年目G.JST次世代3年目H.JST AI1年目I.JST AI2年目J.JST AI3年目K.1年目JST次世代(E.)→2年目学振採用の2年目L.1年目JST次世代(E.)→2年目学振採用の3年目
収入(年間)180万円240万円240万円267万円180万円240万円240万円234万円312万円312万円240万円240万円
負担額合計15.8万円27.3万円37.2万円37.2万円15.8万円38.4万円55.1万円15.8万円52.2万円72.9万円38.4万円33.2万円
手取り(年間)164.2万円212.7万円202.8万円229.8万円164.2万円201.6万円184.9万円218.2万円259.8万円239.1万円201.6万円206.8万円
手取り(月換算)18.2万円17.7万円16.9万円19.2万円18.2万円16.8万円15.4万円24.2万円21.65万円19.9万円16.8万円17.2万円

A.学振1年目

4月から12月まで20万円×9ヶ月=180万円受給し、それ以外の所得や社会保険料控除はないものとします。

研究遂行費は3割分申請し、勤労学生控除を申請します。

国民健康保険料は、昨年の収入が65万円以下(給与所得)とします。

収入研究遂行経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(本年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分)
180万円54万円126万円65万円61万円0円0円0.5万円0円8.3万円21万円164.2万円

※参考:月計算
国民年金(12分割):17,510円/月

B.学振2年目

1月から12月まで20万円×12ヶ月=240万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

研究遂行費は3割分申請し、社会保険料控除はA.で支払った分(4月から12月)を使います。

収入研究遂行経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をA.で計算)
240万円72万円168万円65万円103万円15.8万円0円4.9万円12.6万円21万円212.7万円

※参考:月計算
国民健康保険料(10分割):約8,300円/月(A.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

C.学振3年目

1月から12月まで20万円×12ヶ月=240万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

研究遂行費は3割分申請し、社会保険料控除はB.で支払った分を使います。

収入研究遂行経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をB.で計算)
240万円72万円168万円65万円103万円26.8万円0円3.8万円12.6万円21万円202.8万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約12,300円/月(B.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約12,600円/月(B.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

※参考:翌年(博士修了年)の支払い額(4月以降社会保険に切り替える場合)
住民税(4分割):約9,500円/月
国民健康保険料(10分割):約12,600円/月(3月まで支払い、4月以降社会保険へ(脱退の手続き要))
国民年金(12分割):17,510円/月(3月まで支払い、4月以降厚生年金へ)

D.学振3年目(研究奨励金特別手当採用)

1月から3月まで20万円×3ヶ月=60万円、4月から12月まで23万円×9ヶ月=207万円、合計267万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

研究遂行費は3割分申請し、社会保険料控除はB.で支払った分を使います。

収入研究遂行経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をB.で計算)
267万円80.1万円186.9万円65万円121.9万円26.8万円0円5.7万円14.6万円21万円229.8万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約12,300円/月(B.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約12,600円/月(B.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

※参考:翌年(博士修了年)の支払い額(4月以降社会保険に切り替える場合)
住民税(4分割):約14,800円/月
国民健康保険料(10分割):約12,600円/月(3月まで支払い、4月以降社会保険へ(脱退の手続き要))
国民年金(12分割):17,510円/月(3月まで支払い、4月以降厚生年金へ)

E.JST次世代1年目

4月から12月まで20万円×9ヶ月=180万円受給し、それ以外の所得や社会保険料控除はないものとします。

経費として70万円を計上します。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分)
180万円70万円110万円0円110万円0円0.8万円7.2万円13.4万円21万円164.2万円

※参考:月計算
国民年金(12分割):17,510円/月

F.JST次世代2年目

1月から12月まで20万円×12ヶ月=240万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

経費として70万円を計上し、社会保険料控除はE.で支払った分を使います。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をE.で計算)
240万円70万円170万円0円170万円15.8万円4.8万円11.6万円19.6万円21万円201.6万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約18,000円/月(E.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約13,400円/月(E.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

G.JST次世代3年目

1月から12月まで20万円×12ヶ月=240万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

経費として70万円を計上し、社会保険料控除はF.で支払った分を使います。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をF.で計算)
240万円70万円170万円0円170万円30.4万円4.1万円10.1万円19.6万円21万円184.9万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約29,000円/月(F.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約19,600円/月(F.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

※参考:翌年(博士修了年)の支払い額(4月以降社会保険に切り替える場合)
住民税(4分割):約25,300円/月
国民健康保険料(10分割):約19,600円/月(3月まで支払い、4月以降社会保険へ(脱退の手続き要))
国民年金(12分割):17,510円/月(3月まで支払い、4月以降厚生年金へ)

H.JST AI1年目

4月から12月まで26万円×9ヶ月=234万円受給し、それ以外の所得や社会保険料控除はないものとします。

経費として70万円を計上します。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分)
234万円70万円164万円0円164万円0円5.3万円12.6万円19万円21万円218.2万円

※参考:月計算
国民年金(12分割):17,510円/月

I.JST AI2年目

1月から12月まで26万円×12ヶ月=312万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

経費として70万円を計上し、社会保険料控除はH.で支払った分を使います。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をH.で計算)
312万円70万円242万円0円242万円15.8万円8.4万円18.8万円27.1万円21万円259.8万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約31,500円/月(E.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約19,000円/月(E.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

J.JST AI3年目

1月から12月まで26万円×12ヶ月=312万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

経費として70万円を計上し、社会保険料控除はI.で支払った分を使います。

収入経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をF.で計算)
312万円70万円242万円0円242万円34.3万円7.5万円17万円27.1万円21万円239.1万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約47,000円/月(F.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約27,100円/月(F.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

※参考:翌年(博士修了年)の支払い額(4月以降社会保険に切り替える場合)
住民税(4分割):約42,500円/月
国民健康保険料(10分割):約27,100円/月(3月まで支払い、4月以降社会保険へ(脱退の手続き要))
国民年金(12分割):17,510円/月(3月まで支払い、4月以降厚生年金へ)

K.1年目JST次世代(E.)→2年目学振採用の2年目

1月から3月まで20万円×3ヶ月=60万円を雑所得として、4月から12月まで20万円×9ヶ月=180万円を給与所得として受給し、それ以外の所得はないものとします。

研究遂行費は3割分申請、経費として50万円を計上し、社会保険料控除はE.で支払った分を使います。

収入(給与所得)研究遂行経費収入(給与所得課税分)給与所得控除合計所得金額(給与所得分)収入(雑所得)経費合計所得金額(雑所得課税分)合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をE.で計算)
180万円54万円126万円65万円61万円60万円50万円10万円71万円15.8万円0円1.7万円9.3万円21万円201.6万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約18,000円/月(E.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約13,400円/月(E.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

L.1年目JST次世代(E.)→2年目学振採用の3年目

1月から12月まで20万円×12ヶ月=240万円受給し、それ以外の所得はないものとします。

研究遂行費は3割分申請し、社会保険料控除はK.で支払った分を使います。

収入研究遂行経費収入(課税分)給与所得控除合計所得金額社会保険控除合計所得税(翌年分)住民税合計(翌年分)国民健康保険料合計(翌年分)国民年金(本年分)手取り(本年分をB.で計算)
240万円72万円168万円65万円103万円30.4万円0円3.5万円12.6万円21万円206.8万円

※参考:月計算
住民税(4分割):約4,300円/月(K.の支払い)
国民健康保険料(10分割):約9,300円/月(E.の支払い、6月〜翌年3月)
国民年金(12分割):17,510円/月

※参考:翌年(博士修了年)の支払い額(4月以降社会保険に切り替える場合)
住民税(4分割):約8,800円/月
国民健康保険料(10分割):約9,300円/月(3月まで支払い、4月以降社会保険へ(脱退の手続き要))
国民年金(12分割):17,510円/月(3月まで支払い、4月以降厚生年金へ)

まとめ:お金の負担を嘆いても仕方ない。どう使いどう活かすかを考える。

この記事では、博士課程で生じる税金や社会保険について解説してきました。

この分野は、細かな制度改正や一時的な減税(定額減税など)がたびたび行われるため、情報を追い続けるのは容易ではありません。

それでも、2025年時点の最新情報をできるかぎり整理できたのではないかと思います。

支給額と手取りの差に驚いた方もいるかもしれません。

しかし、手元に残る金額のイメージがつけば、生活や貯金、たまの趣味に充てる計画も立てやすくなるはずです。

そして、博士課程に進もうという皆さんであれば、数字をもとにした見通しや逆算も、きっと難なくこなせるはずです。

この記事が、博士課程での生活設計に役立つ情報となれば幸いです。

では。

今回特に、この記事を作成するにあたって、たくさんの記事を参考にさせていただきました。
以下のリンクはその一部となります。この場を借りて御礼申し上げます。

【参考URL】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


error: Content is protected !!